反射望遠鏡の自作状況のブログ

望遠鏡のネタを中心に自作などの状況をご紹介します。

アニーリングの件

反射望遠鏡の鏡材は一般のガラスよりも熱膨張が小さなボロシリケートガラスが一般的に使用されています、いわゆる耐熱ガラスとして有名なパイレックスとかスーパーマックスですね。 従来は望遠鏡用の鏡材を入手するには海外の光学ガラスメーカより鋳込みガラスを購入していましたが、販売停止中とかの問題で少量を入手するルートが狭くなってしまっています。 現在入手ルートを開拓中ですが、世の中丸い耐熱ガラスの用途は望遠鏡のみではありません、産業用のサイトガラス(覗き窓)用にもボロシリケートガラスが使用されており、サイズ感もマッチングします。 ただし、サイトガラスを使用するにはガラス内部の歪という大きな問題があります。

ガラスは冷却する段階で内部歪を発生します、内部歪を減少させるためには冷却をゆっくり行うことが必要です。 ゆっくり温度を下げて歪を除去する作業をアニーリング(徐冷)と呼びます。

サイトガラスも概ね1日かけてゆっくり温度をさげて処理しています。 サイトガラスとしてはこれでも問題ないのですが、望遠鏡の鏡の材料としては内部歪が残っているとガラスの片面を削り落としている最中に破損したり、温度で鏡面が歪んだりする可能性が高くなります。 

望遠鏡の鏡や光学部品において、特に透過で使用する場合には内部歪は致命的です。

ガラスは内部歪があると複屈折を起こし光の透過に影響を及ぼします。

複屈折は光の縦波と横波の進行速度に差が生じてしまうため透過した光は偏光軸は回転するので偏光板で挟み込めば明暗や着色としてみることができます。

今回、サンプルで直径25cmで厚み3.5cmのサイトガラスを入手し評価している所です。 内部歪の程度は複屈折の発生状況を観察してみました。

↓25cmサイトガラス(ボロシリケート)

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内部歪は残っている場合には十字模様が観察できます、はっきりと十字が観察できるので通常のアニーリング品と思われます。

↓手元あった直径15cm、厚み3.5cmのサイトガラスでは

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十字どころではなく鏡周側にはかなりの歪が残っており中央部もかなり悪いです。

ちなみに、反射望遠鏡用にアニーリングされた材料では十字は確認できませんし、ムラも生じない状況となります。

ところで、このような内部歪を持ったガラス材を望遠鏡用の材料として使用するためには、内部歪を除去するために再アニーリング作業を行う必要があります。 

再アニーリング作業は、ガラスを徐冷点(約565℃)まで温度上昇させてからゆっくり歪点(約515℃)まで温度降下させます。 このゆっくりの速さが一般のアニーリングでは約1日、光学用途では10日(厚み3.5cmの場合)かけて行います。

 

現在、30cmまで処理できる電気炉の製作を開始したところです。

将来、フュージングにより皿状の鏡材製作もできるよう1,300℃程度まで加熱できるものを製作する計画です。 完成すれば、サイトガラスを再アニーリングすることで従来の鏡材と同等にすることができるため鏡材入手ルートが広くなります。

問題は、部屋に収まるか・・・